「融資を受けるには社長個人の保証が必要です」——多くの中小企業経営者が当然のように受け入れてきたこの慣行が、ここ数年で大きく見直されています。経営者保証(社長個人が会社の借入の連帯保証人になること)は、会社が返済不能になった際に自宅や個人資産まで失うリスクを伴い、事業承継や思い切った投資判断の足かせになってきました。国はこの慣行を段階的に見直す「経営者保証改革プログラム」を進めており、無保証で融資を受けられる公的な制度が整ってきています。今回は、資金繰りの選択肢を広げるために知っておきたい3つの制度と、その使い方を整理します。
経営者保証がなぜ資金繰りの重荷になるのか
経営者保証を付けて借り入れると、金融機関にとっては貸し倒れリスクが下がるため融資は通りやすくなります。しかし経営者にとっては、会社の業績が悪化した際に個人資産(自宅や預金など)まで返済に充てなければならない可能性が生じます。この心理的な負担が、思い切った設備投資や事業転換の判断を鈍らせたり、後継者が「保証を引き継ぎたくない」という理由で事業承継そのものをためらう一因になったりしています。中小企業庁と金融庁は2022年12月に「経営者保証改革プログラム」を公表し、無保証融資を広げる方向性を示しました。以下で紹介する制度は、いずれもこの流れの中で整備されたものです。
保証料の上乗せで無保証にできる「経営者保証免除特例制度」
信用保証協会(中小企業の借入を保証してくれる公的機関)の保証付融資を利用する場合、2023年4月から「経営者保証免除特例制度」が使えるようになりました。通常の保証料率に0.25%を上乗せする代わりに、経営者保証なしで保証付融資を受けられる仕組みです。主な要件は次の3つです。
- 法人と経営者個人の資産・経理を明確に分離していること(会社の口座と社長個人の口座を分けている、社有車を私的に使っていない、など)
- 財務基盤が一定水準にあること(直近決算で減価償却前の経常利益が2期連続赤字でない、または実質的な債務超過に陥っていないことのいずれかを満たす)
- 金融機関からの求めに応じて、試算表や資金繰り表などを適時に開示できる体制があること
限度額は利用する保証制度の枠内(無担保保証8,000万円、普通保証2億円など、合算で2.8億円が目安)です。恒久的な制度として運用されており、現時点で終了時期は示されていません。まずは取引のある信用保証協会や金融機関の窓口で「免除特例を使えるか」を確認するのが早道です。
事業承継のタイミングで使う「事業承継特別保証制度」
後継者への引き継ぎを控えている、あるいは直近3年以内に代表者を交代した会社であれば、2020年4月に創設された「事業承継特別保証制度」も選択肢になります。前経営者・後継者いずれの個人保証も不要にできる制度で、既存の経営者保証付き融資を借り換えて保証を解除する使い方も可能です。保証料率は事業者の財務状況に応じて通常より低く設定され、限度額は既存の保証付融資と合わせて2.8億円です。事業承継を機に個人保証を整理したい場合、承継の実行前に一度、保証協会に相談しておくと選択肢が広がります。
| 制度名 | 主な対象 | 保証料の目安 | 限度額 |
|---|---|---|---|
| 経営者保証免除特例制度 | 信用保証協会の保証付融資を使う全ての中小企業 | 通常料率+0.25% | 2.8億円(枠内) |
| 事業承継特別保証制度 | 事業承継の前後3年以内の法人 | 通常より低率(0.20%以下の見込み) | 既存保証と合算2.8億円 |
プロパー融資でも「なぜ保証が必要か」を聞いていい
信用保証協会を介さず金融機関から直接借りる「プロパー融資」でも、変化が起きています。2023年4月から金融庁の監督指針が改正され、金融機関が融資の際に経営者保証を求める場合、その理由を経営者に具体的に説明することが求められるようになりました。「昔からの慣行だから」といった曖昧な説明では足りず、財務状況のどの点が根拠になっているのかを聞く権利が経営者側にあるということです。保証を求められた際は、その理由を確認したうえで、財務体質を改善すれば将来的に保証なしへ見直してもらえるか、あわせて相談してみる価値があります。
まず動くなら、この3ステップ
- 直近の決算書を見て、減価償却前経常利益が2期連続赤字でないか、実質債務超過でないかを確認する
- 会社と個人の資産・経理が分離できているか点検し、混同している部分があれば整理する
- 取引金融機関や信用保証協会の窓口で「経営者保証免除特例制度」または「事業承継特別保証制度」が使えるか相談する
経営者保証の扱いは、会社の状況や取引金融機関の方針によって判断が分かれる部分もあります。制度の詳細や自社への当てはめ方は、顧問税理士や信用保証協会の経営者保証コーディネーターなど、複数の窓口で確認しながら、自社に合った資金調達の形を選んでいくとよいでしょう。